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横浜の探偵ブルーフィールドリサーチ

五番街の住人

横浜駅の西口五番街。そこには昼夜を問わず人々が行き交う喧騒がある。ネオンの灯りが路地に揺れ、酒とタバコの匂いが空気に漂う。この街の片隅には誰からも気に留められない人間たちが潜んでいる。


陽介はその一人だった。かつては大手商社に勤めるエリートだったが、会社の不祥事の責任を押し付けられ全てを失った。妻も子供も去り、今ではこの西口五番街の小さなネットカフェで暮らしながら日雇いの仕事を点々としている。


彼が唯一心を許せるのは同じネットカフェに住むカスミだった。カスミは若くして家を出たが行き場を失い、この街に流れ着いた。カフェで働きながらギリギリの生活を続けている。

彼女もまた夢を語るような人間ではなかった。ただ生きるために働き、夜には陽介と缶ビールを流し込む。それが二人の日常だった。


「こんな生活、いつまで続くんだろうな」陽介が呟く、酔いが回ったのかいつもより声が重い。


カスミは返事をしなかった。

ただ缶ビールを握り締めたまま路地裏の薄暗い空を見上げていた。


「逃げようと思ったこと、あるか?」陽介が問いかける。


カスミは一瞬だけ彼の方を見たが再び空を見つめた。

「逃げるって、どこに?ここ以外の場所なんてないよ」彼女の声は冷たく、それ以上の言葉を許さない雰囲気だった。


その夜、陽介は久々に夢を見た。

かつての家族、温かい食卓、笑い声。

そして目が覚めた時全てが夢であることを思い知らされる。


「俺、やっぱりここを出るよ」次の日の夜、陽介はそう切り出した。


だがカスミは首を振る。「そんなの無理だよ、私たちはここでしか生きられない」


その日、陽介はカスミと別れた後西口五番街のさらに奥へと歩き出した。夜の街はいつも以上に冷たくそして暗かった。

そこで彼が見つけたのは高架下の暗がりで鳴り続ける古い公衆電話。受話器を耳に当てると、誰も話していないのに雑音の中から囁き声が聞こえる気がした。


「戻れないぞ」


その声が幻聴なのか現実なのか陽介には分からなかった。

ただ、その言葉が胸に刺さり彼は受話器を置いた。


それから数日後、陽介の姿は西口五番街から消えた。

カスミはそれを知りながら何も言わなかった。

ただ、彼が置いていった缶ビールの空き缶を捨てた時ほんの少しだけ泣いた。



西口五番街は今日も変わらない。

ネオンの灯り、酒とタバコの匂い、そして行き交う人々。


「逃げようと思ったことあるか?」

彼の問いかけは今もカスミの心に深く突き刺さっている。

いつか彼女もこの街を出て新しい人生を歩むことができるのだろうか。


その答えは、まだ夜の闇に隠されている。



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