※noteではイラストも入っており読みやすいです
※個人名や地域は特定を避ける為に名称を変更しています。
後ろの席に座っている杉原が叫ぶ
「あっ、今のところじゃないですか?」
「え?脇道なんてあった?」
1台も他の車が走行していないので、その場で停車しバックする。
「ほら、ここですよ!」
「さっきみたいな鬼バックはもうヤダぞ?」
猟師さんから林道への詳しい行き方を教わった。
湖畔沿いの道を下山する方向に走っていると右手に祠があり、そこを通過して1本目と2本目の橋の間、若干2本目寄りの左手に林道への入口があると。
教わった通りに入っていくとどんどん狭くなり、
最終的に道らしきが終わり、雪の影響で出来たぬかるみにハマっていた。
杉原が車のフロントから押す形でなんとかぬかるみを脱しそのままバックで湖畔の道まで戻るという、、、
15分前にそんな泣きたくなる様な経験をしていたのでとにかく慎重だ。
「絶対ここですよ、だってこの先はすぐに2本目の橋ですもん。」
「よし。じゃあ、行くか。」
舗装はされていないが、さっきの所と比べると確かに道だ。
ハイビームで慎重に走り続ける。
体感的にはかなり走行したつもりだが、実際には10分程度だろう、緩く続いた上り坂が終わり少し開けた場所に着いたと同時に暗闇の中ライトで照らされている唯一の視界内に車が現れた。
「うわぁ、あった、、、、、、。」
杉原の言う通り今、私達2人の目の前にある車は
ずっと探していた山田達夫さんの車で間違いない。
こちらの車を停め、ボンネットに落ち葉が積もった山田さんの車に近づく。
運転席側から車内をライトで照らす。
プッシュ式エンジンらしく、鍵穴が見当たらない。
また、ドアロックはされていないようだ。
猟師さんが言っていた通り、助手席のシートに弁当箱が置いてある。
他にはウイスキーらしき瓶も見えたが特に荒らされている感じはない。
助手席側に回った杉原に「後ろはどう?見えるか?」
フロント側に回り込みライトを後部座席に向けて照らす。
「誰かいます!寝てる様に横たわってます!」
「山田さんか?」
「わかりません!顔を隠すように横たわっててはっきり見えないです!」
「服装はどう?」
「あっ!失踪した時と同じ色の服です!!
どうします?ドア開けますか?」
「いや、開けなくていいからガラス叩いて呼びかけろ」
「わかりました!」
杉原が後部の窓ガラスを叩きながら
「山田さんですか?
おおい!
生きてますか?
山田さん!」
よく観察すると車の窓ガラスは4枚とも少し上部が開けられているので、いわゆる「排ガス」や「練炭」的なものではなさそうだ。
後部座席で膝を抱え胎児の様に横たわっており杉原の言う通り角度的にはっきりと顔は見えない
頬から口元にかけて視認出来るが、この部分だけでは山田さんなのかは判然としない。
見える範囲でだが、腐敗している様子も見えない。
冬という季節と窓ガラスを開けていた為だろう。
「返事は?」
「全然ないです、、、。」
「じゃあ、一旦さっきの駐車場に戻るぞ。」
「え?なんでですか?」
「ここ、圏外なんだよ。」
杉原がスマホを取り出す。
「あ、ホントだ。」
「一旦戻って、警察に電話する。こうなったら俺達だけではどうしようもないから。」
「確かに、、、奥さんにも電話するんですか?」
「失踪届けを出してるから警察から連絡するはずけど、警察もまずご遺体を警察署に運んでからだと思うけどな。」
「なるほどです。
あ、ここは転回出来そうだからさっきみたいな鬼バックしなくて良さそうですね。」
泥だらけになったレンタカーで駐車場に戻ってきた。
すぐに電話をかける
『もしもし、事件ですか?事故ですか?』
「どちらでもないのですが、自殺体を発見しました。」
『え!? 場所はどちらですか?』
―――――――――――――――――――――
「では、警察官が消防と合流しそちらの駐車場へ向かいます。隊員が到着したら発見場所までの誘導をお願いします。」
「わかりました、よろしくお願いします。」
横で煙草を吸っている杉原に
「警察と消防がやって来るまで待機だな。」
「わかりました!
実はここに来る途中、コンビニでパンや飲み物を買ってきてたんで食べましょうよ。」
「おっ、気が利くじゃん。そういえばなんも食ってなかったからなあ。」
「さっき、暗闇の中から車が見えた瞬間に俺、鳥肌たちましたよぉ。」
「さすがに俺も車を発見した時にうわってなったな。」
「ですよねぇ。」
つい先程ご遺体を見つけた割に通常運転な呑気な会話している。
実は私と杉原はとある事情でご遺体を見慣れている。
今まで目を背けてしまう様な腐乱死体も何度も見てきているので、ご遺体の事より発見場所のシチュエーションにドキドキしていた。
もし今回杉原ではなく別のスタッフを連れて来ていたら
おそらくトラウマになっていた可能性が高いだろう。
軽食を済ませ、所長にも連絡を入れ間もなく1時間が過ぎようとする頃
下の方から4、5台分のヘッドライトが山道を登ってくるのが見えた。
―――――――――――――――――――――
自分を先頭に3台の警察車両と救急車がついてくる。
人生でそうそうないであろう車列のリーダーを務め、林道の入り口で一旦停車した。
「ここから先はかなり狭いんですが、全車両入って行くんですか?2台位にしないと多分転回するのしんどいですよ?」
「そうですか、ではバンと救急車で入るようにしますね。」
3台になった車列が狭い林道を慎重に進み、山田さんの車が停まっている広場に到着した。
警察官や救急隊員は到着と同時にテキパキとそれぞれの作業に取り掛かっている。
私と杉原は少し後方で一人の警察官と話をしている。
所謂、事情聴取ってやつだ。
ひと通り、失踪人の調査で横浜から来た事、
いろいろと聞き込みを経て、この場所にたどり着いた事など発見に至るまでの経緯を伝えた。
さて、ここからが面倒くさいのだが
見つけたご遺体が山田さんなのかというのを確認しなければならない。
しかし、警察っていうのは部外者には教えられませんってワードを駆使する団体で有名だ。
この団体から情報を引き出すことが兎に角面倒くさいのだ。
今目の前にいる警察官は比較的若い。
明らかに私より若い警察官の場合、下手に出ると逆効果。
高圧的にならない程度で少し上から目線で会話をすると
基本的に縦社会の人達なのでポロっと情報が拾えたりする。
「あ、そうだ。さっきも話した通り、奥様から依頼されて山田さんを探してたんだよ。
この車は山田さんので間違いないし、
ご遺体の服装も失踪時の情報と一致するんだけど、
車内のご遺体は山田さんで間違いないよね?」
「いやぁ、第三者にはお教え出来ないもので、、、」
出た、鉄板ワード。
「第三者はないでしょ。
通りすがりで車を見つけて通報した訳じゃないよ?
こっちは山田さんの奥様から正式に依頼されている訳だし、言い換えれば、奥様の代理人なんだよね。
なんだったら契約書見せてもいいよ。
いい?
わざわざ横浜から来て、何十人の人達から山田さんの話を聞いて、山田さんの車をここで見つけたんだよ?
そんな人に対して第三者って、口が裂けても言っちゃいけないよ。」
当然、若い警察官は面食らう。
「もちろん身元確認が取れていないんだから断定出来ないのは理解してるよ?
でも、なんとなく分かっている事実もあるでしょ。
こっちは正式な代理人なんだから、それを知る権利あるんだよ?」
正式な代理人ってなんだよ(笑)
「そうですよね、、、、 わかりました、、、、。
ええと、ご遺体は確認が取れていないので断定出来ませんが車内から免許証が出てきたので、写真とご遺体は
まあ、同じ人物なのかなと、、、」
「山田さんは精神的に追い込まれていました。やはり自殺ですか?」
「、、、、、。そうですね、今のところ自殺で間違いないのかなと、、、。」
「なぜですか?」
「車内から遺書らしき書置きが見つかりました。」
「見せてもらえますか?」
「ごめんなさい。さすがにお見せは出来ないですよ、、、。」
「そうですか、車を見つけた時にドアロックは掛かってなかったので普通に開けて探す事も出来たんですがそれだと、警察の人もやり辛いのは理解してるのであえて何も触らなかったんだけどなぁ。」
「勘弁してくださいよぉ。」
「じゃ口頭でいいから、かいつまんで教えてよ。」
内容としては
大前提、依頼人と子供の事は心から愛している
しかし、人間関係に悩みこの数か月解決に向けて頑張ってみたが一向に答えは見つからず、
自分がこの世界から消えることが唯一の道である的なものだった。
こういった物を目にするたびに思う事がある。
愛している人がいるんだし
その人達から愛されているじゃん
愛さえあれば仕事や人間関係なんていくらでもリセット出来るじゃんよ
まあ、山田さんの様な答えに辿り着く人達は沢山いるし
その人達がこの様な選択をしなくてもいい世界を築けていない私たちの責任もあるのかなと。
きっと、生きていく苦しさと命を絶つ怖さの両極を行ったり来たりなんだろうな。
「最後に、ご遺体はどこの警察署に搬送されますか?」
「〇〇〇〇警察署です。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「さて、横浜に帰る終電もないし、街に戻って宿探すか。」
「そうですね、俺も疲れちゃいました!」
―――――――――――――――――――――
深呼吸をすると、ひんやりとした朝の空気が胸いっぱいに広がる。
澄んだ空気は心をクリアにし、思考を明瞭にしてくれるようだ。
「いいんですね?本当に先帰っちゃいますよ?」
「いいよ、こんな下らない事に付き合わせたら申し訳ないから。」
「惚れ惚れするような仕事したのに、ツイてないっすよねぇ。深呼吸したって変わんないっすよ?」
前日の林道での転回時にフロントバンパーを少し擦ってしまい
レンタカー屋から事故扱いになるので警察署で事故処理をしてきて下さいと言われたのだ。
事故の現場は山田さんを発見した場所なので
ご遺体が安置されている〇〇〇〇警察署が管轄である。
とりあえず〇〇〇〇警察署に電話して事情を伝えると昨晩の事を知っていた様で
「さすがにあの場所に行くのはお互い大変だろうから
警察署に来てくれたら事故証明書を発行しますよ。」
との事。
新幹線が停まる駅の街に宿を取っていたので
〇〇〇〇警察署に行くだけでもかなりの距離だ。
ま、しかし、どうしようもないので時間をかけて警察署まで行き証明書を発行してもらう。
そこからさらに時間をかけ、夜津波ダムへ向かう。
林道に入り、山田さんが眠っていた場所に車を停める。
夜の間に山田さんの車は移動させたようで
その場所は普段と変わらない林道の中にある少し開けた場所に戻っていた。
今日この林道を通った人達には何の変哲もない道なんだろうな。
警察署を出た後に購入した花束を
昨日まであった車の場所に手向け、手を合わせる。
帰りの新幹線の車内
依頼人である山田さんの奥さんからメールが届いた
【おかげさまで主人と会うことが出来ました。
残念ながら元気な姿の主人ではないので未だに混乱しておりますが
もう少し発見が遅れていたら、春まで主人と会うことがなかったですし
生前の姿もしていなかったと思うと感謝しかありません。
私自身、これからどうすればいいのかまだ分かりませんが主人の分も頑張っていこうと思います。
これから本格的な冬が来ます、どうかお身体御自愛ください。
本当に心から感謝しています。】
―――――――――――――――――――――
「これ、東北県で最近売れている土産物らしいよ。」
妻に渡す。
「あら、ありがとう。
そう言えばお土産お願いねって言ってたわよね。
言った本人がすっかり忘れちゃってた。」
笑いながらいつもの平和な返答が返ってきた。
神奈川 横浜の探偵 ブルーフィールドリサーチ
note 横浜 ブルーフィールドリサーチ https://note.com/bluefield045
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