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横浜の探偵ブルーフィールドリサーチ

真面目で良い人

note版


「桜木さんってモテそうだよな。真面目で良い人そうだし」


大学の新歓コンパで僕は先輩からそう言われた。

別に悪い気はしない。むしろ、褒め言葉として受け取っていた。


「はは、そうですかね。彼女いたことないんですけど」

謙遜の意味も込めてそう答えると先輩はニヤリと笑ってこう言った。


「だからだよ。真面目で良い人そうなのに彼女いないって絶対モテる要素じゃん。なんか守ってあげたくなるっていうか」

先輩の言葉に僕は少しだけ違和感を覚えた。


モテる要素? 守ってあげたくなる?

僕が今まで彼女がいなかったのは単に奥手で自分から積極的にアプローチできなかっただけだ。

真面目だからとか良い人そうだからとかそんなことは関係ない。


それに守ってあげたくなるってどういうことだろう。

僕は何か弱い存在に見えるのだろうか。


そのコンパの後も僕は何度か同じようなことを言われた。


「真面目で良い人そう」「優しそう」「誠実そう」


どれも僕の外見や雰囲気から勝手に想像されたイメージでしかない。本当の僕を知らないのに彼らは簡単に「モテそう」と決めつける。


ある日、僕は大学の図書館で同じ学科の女子と話をする機会があった。彼女は僕がいつも一人で本を読んでいるのを見て話しかけてきたのだ。


「いつも一人で本読んでるよね。何か面白い本あったら教えてよ」

彼女は明るく話しかけてきて僕は少し戸惑いながらも最近読んだ小説について話した。彼女は興味深そうに聞いてくれて僕たちはしばらくの間本の話をした。


その日の帰り道、僕は彼女のことを考えていた。

彼女は僕のことを「真面目で良い人そう」なんて言わなかった。

ただ、僕が話した本の内容に興味を持ってくれた。

それだけで嬉しかった。


もしかしたら「モテそう」という言葉は相手のことを何も知らないときに使う便利な言葉なのかもしれない。

本当の性格や内面を知ろうとせずに表面的なイメージだけで判断する。


そんな安易な言葉で人を括ってはいけないんだ。


大切なのは外見やイメージではなく、内面で相手と繋がることだ。


いつか僕のことを本当に理解してくれる人と出会えたらきっと「モテそう」なんて言葉は必要なくなるだろう。


図書館で出会った彼女との距離は本の貸し借りから始まり、次第にカフェで一緒に勉強するまでになった。

彼女はいつも僕の話を真剣に聞いてくれ、僕の好きな作家や映画にも興味を示してくれた。


「桜木君って本当に優しいね。人の気持ちをよく分かってる」


そう言ってくれる彼女の笑顔を見るたび、僕は自分がこれまでの人生で感じたことのない温かさを感じていた。

彼女とならきっとうまくいく。そう確信していた。


ある日いつものようにカフェで彼女と会話をした後、僕は勇気を出して彼女を食事に誘った。彼女は少し照れくさそうに、でも嬉しそうに頷いてくれた。


カフェを出て少し歩いたところで彼女は突然足を止めた。

「ねえ、桜木君。急にこんなこと言うのもなんだけど、桜木君のこともっと知りたいの」と彼女は少し照れながら言った。


僕は「もちろん、僕も君のことをもっと知りたい」と返事をし彼女と目を合わせた。その瞬間、不思議な感情が胸をよぎった。ただ恋愛感情だけではない高揚感と期待感に包まれていた。


しばらく歩くと彼女の勧めで少し離れた静かなレストランに入った。落ち着いた雰囲気で会話もしやすい場所だ。僕たちはそこでたくさんのことを話した。彼女のこと、自分のこと、将来のこと。


本当に彼女は良い人だった。僕の話に耳を傾け真剣に向き合ってくれる。また彼女の笑顔を見ていると心の中に暖かさが広がっていくのを感じた。こんなにも純粋に僕を信じてくれる人がいるとは思わなかった。


そして食事が終わり、僕は彼女を公園に連れていった。夜の静寂の中で僕は彼女に近づき優しい笑みを浮かべた。


「ありがとう、今日は楽しかった」と彼女が言った瞬間、僕の手が動いた。


彼女の目が驚きと恐怖で広がるのを見ながら僕は満面の笑みを浮かべた。


彼女とは内面で繋がる事が出来たのかな?


彼女の声が消えた後、僕は静かに公園を後ろ手に歩き去る。

次の恋人候補を探すために、再び「真面目で良い人そうな」仮面を被る準備を始めた。



僕は今まで彼女が出来たことがない。

だって恋人になるにはまず内面で繋がる必要があるから。



いったいいつになったら彼女が出来るんだろうか。



終わり



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